マーヴィン語録

先ほどの片隅でロボットはぱっと顔をあげたが、やがてその首をほとんどわからないぐらいにふった。のろのろと立ちあがるさまは、実際より二キロほど身体が重いかのようだ。それを見ていると、ただこちらに近づいてくるだけなのに、途方もない難事に雄々しく立ち向かっているのかと錯覚しそうになる。トリリアンの前で立ち止まったが、まるで彼女の左肩を透かして向こうを見ているようだ。
「先にお断りしておきますが、わたしはとても気が滅入っています」ロボットはぼそぼそと暗い声で言った。
〔…〕
「うっとうしいやつだと思ったでしょ?」みじめったらしい声で言った。
「なにを言うの、マーヴィン」トリリアンは快活に言った。「そんなこと思うわけないでしょ…」
「うっとうしいやつだと思われたくないんです」
〔…〕
彼はどんよりとまわれ右をして、重い足を引きずって部屋を出ていった。

(『銀河ヒッチハイク・ガイド』安原和見訳 PP.123-125)

ふたつの太陽が暗黒の宇宙に燃える光を投げかける。そしてブリッジには陰気な曲が低く流れていた。マーヴィンがいやがらせにハミングしているのだ。彼は人間がそれほど嫌いなのである。

(同 P.161)

「あれはロボットなんてもんじゃない」アーサーが小声で言った。「どっちかって言うと、電子ふてくされ機ですよ」
「連れてきなさい」老人は言った。〔…〕
声をかけると、マーヴィンは斜面を這って登りはじめたが、実際には痛くもない脚をこれ見よがしに引きずっている。

(同 P.208)

スチールのロボットが、冷たい土に突っ伏してじっとしていたのだ。
「マーヴィン!」彼は大声を上げた。「なにしてるんだ?」
「どうぞ、わたしのことなんか気にしないでください。」くぐもった暗い声がした。
「そんな、具合でも悪いのか?」フォードは言った。
「とても気が滅入っているのです」
「なにがあった?」
「わかりません」とマーヴィン。「いつだってわからないんです」
フォードはマーヴィンのわきにしゃがんで、震えながら尋ねた。「なんだって土んなかに顔を突っ込んでるんだ?」
「非常に効果的にみじめな気分を味わえるからです」マーヴィンは言った。「話をしたいふりなんかしないでください。あなたがわたしを嫌っているのはわかっているんです」
〔…〕

(同 P.286)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

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パラノイド・アンドロイド

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