ハードボイルド

矢作俊彦氏の『ららら科学の子』は、ドライアイを酷使しながら結局2日くらいで読み終えたのですが、読みながらずっとジリジリとした興味と興奮が持続しました。事前にあちこちで「分かる人にだけ(=同じような世代に)分かればいいのか!!?」といったような批判というかコメントを目にしていましたが、たしかに同世代だとこの作品への距離の取り方、読み方が、具体的な共感を伴なった別のものになるであろうことは容易に想像できましたが、それ以上に、現在の日本で生活をしている人であれば、あの作品から疎外されていると考えるほうが難しいように思えました。歴史への意識の持ち方の違いなのかもしれませんが、、。
ただ、私は火炎瓶を投げていた学生たちの視点に入りこむ以上に、以前記者をやっていたころ担当していた警察署の副署長からよく聞いた、当時の学園紛争の話を思い出しました。当時まだ20前後で機動隊員だった彼は、盾とメットと警棒のみを身につけての学生達とのぶつかり合いを何度も経験したそうですが、本当に殺されるかもしれない、という戦慄を感じたことが何度かあったと話していました。自分たちを見る目が、本当に恐ろしかった、本気で殺そうとしているような目だった、と。警備の仕事でもなんでも、本当に命懸けで、いつも胃が痛くなるほど緊張していた、と。彼は大抵その話しをしたあとで、「あの頃に比べて、今は学生もなにも皆変わった、もう目が違うんだよ、、」と遠い目をしていましたが、これを読んだらどう思うのだろう、と、それがとても聞いてみたくなりました。
私が高校の頃はまだたくさん立て看板やビラが貼りついて独特な空気を醸し出していた御茶ノ水明治大学キャンパスも、今では23階建て・ピカピカの「リバティタワー」ですし、、、。
それにしても、矢作氏は映画監督もやっていたそうですが、彼の空間、風景描写の凄さはちょっと並ぶ人がいないのでは、と感じさせるほどでした。詳しく覚えていないのですが、福田和也氏もたしか新潮のコラムで、中国大陸の延々と続いて行くアンテナの場面を引いていたと思いましたが、あのあたり、本当に凄かったです。死んだ赤ん坊を川に流して、それがずっと続いていることに驚くところなども。日本に帰ってきて初めて地図を見て、空間が左右にも広がる所とか。
ということで、今度は彼の処女長編『マイク・ハマーへ伝言』を読んでいます。ニューハードボイルドの旗手!だそうで。1978年に発表された、とありますが、ちょうど私の生まれた年です。