トリアー

映画の日ということで、『ドッグヴィル』を観てまいりました。わたしにとってラース・フォン・トリアーといえば、なにより『エレメント・オブ・クライム』であり、『キングダム』であり、『エピデミック』であったのですが、今回の作品も含め、こうした小世界というか、世界の縮図のような世界を濃密に、ダークに、美しく撮らせたら彼に匹敵する監督はなかなかいないのではないかと思いました。
ブレヒトの「海賊ジェニー」からインスピレーションを受けたというのを映画を見たあとに読んで、ああ、なるほど、といたく納得(見る前に知らなくてよかった、、)。ラストが云々、という批判があるようですが、まず最初にブレヒトがあったのなら、それはああなりますよね。それを元に彼なりにストーリーを組み上げていったということなのでしょう。アメリカに行ったことのない監督によるアメリカ三部作の一作目としての、現代におけるブレヒト翻案、と考えると、非常に興味深いです。一気にトリアー氏から目が離せなくなりました。
あと、外部からの人間をひとつの共同体が匿う、という設定から、最後の逆転まで、見ながらチアン・ウェン監督の『鬼が来た!』と重なりました。もちろん設定も、描かれているものも、歴史的背景も違うのですが、構造が似ていてそれも興味深かった。「寛容」とか「善意」などで消去できない暴力と緊張を描いているという点でも。
今回はほとんど前知識なく見たのですが、最初は単なる話題作りかと思っていたセットも、じつはものすごく必然性があってああなったのだというのがよくわかりました。というか、見るまで気がつきませんでした。いやはや。
そして、ニコール・キッドマン!かつてのロードショー&スクリーン愛読者(小・中学生時代前半)としては、「『トップガン』のトム・クルーズの妻で『デイズ・オブ・サンダー』とかに出ていたハリウッドスター」というイメージについ最近まで支配されていたのですが、『めぐりあう時間たち』を見たとき、こんなに素晴らしい女優だったのかと驚き、今回さらにその迫力にびっくりしました。美しい。非常に率直に、女優さんってすごいわぁ、という母親のような感想をこぼしたくなりました。